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数学の証明はラブレターだって君は言うけど

 かつて知人は言った.
「数学の証明はな,ラブレターなんや.読む人の気持ちを想像しながら,自分の気持ちを丁寧に説明するんや」
 あれから幾星霜,数学の各種刊行物でしばしば出会う言葉がある.

Proof. Clear.
Proof. Obvious.
Proof. Routine.

 これはラブレターなんでしょうか.愛をささやくラブいレターなんでしょうか.私は手にしたボールペンをバキバキと砕きながら,死んだ魚の眼で虚空をみつめ,誰にともなく問いかけてみる.誰も,こたえてはくれない.

 週末を完全に潰し,睡眠時間もいくらか削った.しかし進捗はない.進捗入れますか,進捗マシマシで,などと,ひとりで虚しい小芝居をした.やはり進捗はない.意味もなく顔ドラムをして机と親睦を深めてみた.そして進捗はない.なぜだ,なぜ私は進捗を得ることができないのだ.否.慨嘆しても虚しいだけだ.ただ嘆くだけなら猫でもできるぞ.いや,猫は嘆いている暇があったらひなたぼっこしながら寝ていそうだ.悲嘆にくれる猫など聞いたことがない.うむ.猫とは実によいものである.いやいやいやそうじゃない.ただ嘆くのではなく,嘆くべき状況とやらを精査しろ,問題として定式化しろ.さて,私の問題とは何か.決まっている.私は如何にして進捗を得る方法に至るべきか.これについて真に驚くべき証明を見つけたが,それを書くには余白が狭すぎる.そして何より,愛が,証明に託して届けるべき愛が足りない.